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東京地方裁判所 平成2年(ワ)3968号 判決

主文

一  別紙物件目録記載の土地につき、そのうち、別紙図面記載のイ・チ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を原告らの共有(共有持分は原告(反訴被告)株式会社中央エンタープライズ一〇分の四、原告(反訴被告)パーク・ファイナンス株式会社一〇分の一、原告(反訴被告)株式会社グラウンズ社一〇分の五)に、同図面記載のホ・ヘ・ト・ニ・ホの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を被告(反訴原告)の所有に分割する。

二  右共有物分割の裁判が確定したときは、被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らに対し、別紙物件目録記載の土地のうち、別紙図面記載のイ・チ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を引渡せ。

三  原告(反訴被告)らのその余の本訴請求をいずれも棄却する。

四  被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は本訴反訴を通じて被告(反訴原告)の負担とする。

理由

【事 実】

第一  当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 主位的請求

(一) 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らに対し、別紙物件目録記載の土地について、別紙図面記載のイ・チ・ハ・ロ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を分割して引渡せ。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

2 予備的請求

(一) 被告(反訴原告)は、原告(反訴被告)らに対し、原告(反訴被告)らが被告(反訴原告)に金一億三八一七万円を支払うのと引換えに、別紙物件目録記載の土地の被告の共有持分一一分の一について共有物分割を原因として持分移転登記手続をせよ。

(二) 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告(反訴被告)らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 主位的請求

(一) 被告(反訴原告)と原告(反訴被告)らとの間において、被告(反訴原告)が別紙物件目録記載の土地について通行地役権を有することを確認する。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)の負担とする。

2(一) 被告(反訴原告)と原告(反訴被告)らとの間において、被告(反訴原告)が別紙物件目録記載の土地のうち別紙図面記載のチ・ホ・ニ・ト・ヘ・イ・チの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分について通行地役権を有することを確認する。

(二) 訴訟費用は原告(反訴被告)らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告(反訴原告)の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は被告(反訴原告)の負担とする。

第二  当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告(反訴被告、以下単に「原告」という。)株式会社中央エンタープライズは持分一一分の四で、同パーク・ファイナンス株式会社は持分一一分の一で、同株式会社グラウンズ社は持分一一分の五で、被告(反訴原告、以下単に「被告」という。)は持分一一分の一で別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を共有している。

2 原告らは、被告に対し、本件土地を分割するよう請求したが、両者間に協議が調わない。

3 よつて、原告らは、民法二五八条二項に基づき、本件土地の分割を請求し、分割の方法として、主位的に本件土地のうち別紙図面記載のイ・チ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を分割して引渡すことを求め、予備的に原告らが被告に金一億三八一七万円を支払うのと引換えに、共有物分割を原因として本件土地の被告の共有持分一一分の一について持分移転登記手続をなすことを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実のうち、被告が本件土地について共有部分一一分の一を有することは認めるが、その余の事実は知らない。

2 請求原因2の事実は認める。

三  抗弁

1 本件土地について、昭和二五年一月三〇日、当時の所有者であつた木村春吉ら一一名が、同人を代表者として市街地建築物法による建築線指定の承諾をした。その後、同年一一月二三日、現行の建築基準法が施行され、同法付則五項により、本件土地は同法四二条一項五号の規定による道路位置指定があつたものとみなされ、今日に至つている。

2 したがつて、分割の結果道路としての用を妨げるから、本件土地の道路位置指定が廃止されない限り、その共有物分割請求は権利の濫用となり許されない。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は認める。

2 抗弁2の事実は否認する。

(反訴)

一  請求原因

1 主位的主張

(一) 抗弁1に同じ

(二) 前項の事実関係の下では、前記木村春吉ら一一名は、相互に本件土地全体について通行地役権を設定したものとみるべきである。

(三) 本件土地の共有者である前記木村春吉ら一一名のうちの一人であつた奥村甚三は、昭和二七年一〇月二七日、その持分全部を奥村知介に売渡し、昭和四二年九月二一日その旨登記を経由し、奥村知介は、昭和四三年九月一七日、その持分全部を被告に売渡し、同月一八日、その旨登記を経由し、被告は前項の通行地役権を取得した。

(四) 原告は、右通行地役権の存在を争う。

2 予備的主張

(一) 被告は、昭和四三年九月一七日、本件土地のうち別紙図面記載のチ・ホ・ニ・ト・ヘ・イ・チの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を自己のためにする意思をもつて、平穏かつ公然と、継続して本件土地に隣接する被告所有地(東京都千代田区三番町七番三一)からの通行の用に供してきたもので、しかもその当初善意で、かつ過失がなかつたものであるから、右通行開始の時点から起算して一〇年の経過により、本件土地のうち右の部分について、右被告所有地を要役地とする通行のための地役権を時効取得したものというべきである。

(二) 仮に当初悪意で、かつ過失があつたとしても、前記通行開始の時点から起算して二〇年の経過により、本件土地のうち前項の部分について、前記被告所有地を要役地とする通行のための地役権を時効取得したものというべきである。

(三) 原告らは、被告の右通行地役権の存在を争う。

3 よつて、被告は、原告らに対し、主位的に本件土地全体について、予備的に本件土地のうち別紙図面記載のチ・ホ・ニ・ト・ヘ・イ・チの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分について通行地役権の存在することの確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一) 請求原因1(一)の事実は認める。

(二) 請求原因1(二)の事実は否認する。

(三) 請求原因1(三)の各売買及び登記経由の事実は知らない。被告の通行地役権取得の主張は争う。

(四) 請求原因1(四)の事実は認める。

2(一) 請求原因2(一)の事実は否認する。

(二) 請求原因2(二)の事実は否認する。

(三) 請求原因2(三)の事実は認める。

第三  証拠《略》

【理 由】

第一  本訴について

一  請求原因1の事実のうち、被告が本件土地について共有持分一一分の一を有することは当事者間に争いがなく、《証拠略》によれば、登記簿上本件土地について原告ら主張の各共有名義の登記がなされていることが認められ、特段の反証もないから、原告らがその主張にかかる各持分で本件土地を共有しているものと推定すべきである。

二  請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

三  そこで、被告の権利濫用の抗弁について判断する。

本件土地について、昭和二五年一月三〇日、当時の所有者であつた木村春吉ら一一名が、同人を代表者として市街地建築物法による建築線指定の承諾をしたこと、その後、同年一一月二三日、現行の建築基準法が施行され、同法付則五項により、本件土地は同法四二条一項五号の規定による道路位置指定があつたものとみなされ、今日に至つていることは当事者間に争いがない。

被告は、分割の結果道路としての用を妨げるから、本件土地の道路位置指定が廃止されない限り、その共有物分割請求は権利の濫用となり許されない旨主張する。

しかしながら、建築基準法四二条一項五号によつて道路位置指定を受けた私道は、同法上の公法的規制(同法四四条、四五条等)を受け、道路としての機能を維持し公共の安全の目的のため提供しなければならず、その反面として一般の通行を認めなければならないとされているけれども、この一般通行の利益は右のような公法的規制によつて一般人が反射的に享受し得る利益であつて、私法上の通行権を生じさせるものではないと解するのが相当であるとともに、あくまで私道であるから、共有物の分割を含めその所有関係に変動を生ぜしめる処分は所有者である私人の自由に任されていることはいうまでもないし、右所有関係の変動によつて右公法的規制に直ちに影響が及ぶものでないことも明らかである。

したがつて、被告の権利濫用の抗弁は理由がなく、本件土地について共有物分割をするに格別の支障はないというべきである。

四  そこで次に、本件土地の分割方法について検討する。

まず、本件土地の位置関係等についてみることとする。

《証拠略》を総合すれば、いずれも本件土地に隣接して、被告は東京都千代田区三番町七番三一の土地(以下地番のみで各土地を表示する。)を、原告株式会社グラウンズ社は七番三二ないし三四の各土地を、原告株式会社中央エンタープライズは七番三六・三八・三九・四二の各土地を、原告パーク・ファイナンス株式会社は七番四〇の土地をそれぞれ所有していること、これら各土地と本件土地の位置関係は別紙図面記載のとおりであり、本件土地の東側・南側・西側の三方は右原告ら及び被告の所有地に取り囲まれ、北側は幅員一一メートルの公道に面していること、本件土地については、前記認定説示のとおり、建築基準法四二条一項五号によつて道路位置指定を受けているのであるが、被告が立会に応じないことが主たる原因で、いわゆる官民境界の査定がなされておらず、原告ら及び被告相互の各所有地の境界確定も未了であること、しかし、この地域の震災復興土地区画整理換地確定図を東京都財務局が保管しており、また、右道路位置指定を受けた際の境界石が現地に一部残存しており、これらに基づき作成されたのが別紙図面であり、これにより本件土地の範囲は一応特定していること、右図面によると、本件土地全体の面積は一二三・五七平方メートルとされており、これは公簿面積に合致すること、原告らは、本件土地と右各隣接土地を一体的に買収して、その上にビルを建築する計画を立てていること(原告らは、被告の前記隣接所有地及び本件土地の被告の共有持分も買収しようとしたが、被告は、坪あたり一億円等高額の買取条件を提示するなどしたこともあつて交渉は決裂した。)、被告は、薬品の販売等を業とし、右隣接の自己所有地上に建物を所有し、そのうち一階を車庫に、二階を倉庫にそれぞれ利用しており、車庫については四台が駐車でき、本件土地側(東側)に出入口が設けられていることが認められる。

以上認定の事実関係に照して考えると、土地の有効利用の観点からしても、本件土地を現物分割しても、その全体としての使用価値・交換価値を減少させることはなく、特に現物分割を不相当とする事情は発見し難い。

五  次に、本件土地をどのように現物分割するのが相当かについて検討するに、現物分割に際しては、共有者の持分の経済的価格を基にして、当事者間の公平を期して、目的物件の種類、性質、位置、利用方法、当事者間の従前の法的・経済的な利用関係その他の諸般の事情を考慮して分割すべきところ、本件土地全体の価額は鑑定等によつて客観的に明らかにはされていない(原告らは、千代田区の公示地価を示すものとして甲第一一号証を提出しているが、これは右価額算定の上で単なる参考資料にしかならない。)けれども、原告らが被告に対し分割帰属させることを求めている土地の価額は、その面積割合、公道及び被告の隣接所有地との接続状況等からして、被告の共有持分の割合にあたる金額を少なくとも下回つてはいないものと認められ、その点では被告にとつてはなんら不利益、不公平を生じないものというべきであり、被告の隣接所有地上の建物の車庫としての従前の利用についても、前記道路位置指定の制限を取り除くには別途関係者の承諾が必要であるし、被告の隣接所有地の公道との接続状況等から考えて、車両の出入口の変更等その利用形態の変更も将来全く考えられないではないものと窺われ、さらに、本件で被告があくまでも本件土地のうち被告の隣接所有地に面する部分全部を車両で通行することが必要であるというのであれば、端的に原告らと被告双方が前記道路位置指定の廃止に承諾することを前提に、被告が現状で右のように車両により通行しているとする部分(被告の反訴予備的請求の通行地役権確認部分)のすべてを被告に取得させ、その代り被告に持分超過部分について対価を支払わせて過不足の調整をすることも現物分割の一態様として考えられない訳ではないけれども、弁論の全趣旨に徴すれば、右のような承諾が得られる可能性は現実的に乏しく、被告としても右のような調整金を支払う意思があるとは到底認められないのであつて、前記認定の事実関係と以上の諸事情を総合考慮すると、本件土地のうち、別紙図面記載のイ・チ・ロ・ハ・ニ・ホ・ヘ・イの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を原告らの共有(共有持分は、従前の持分割合に応じて、原告株式会社中央エンタープライズ一〇分の四、原告パーク・ファイナンス株式会社一〇分の一、原告株式会社グラウンズ社一〇分の五)に、同図面記載のホ・ヘ・ト・ニ・ホの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分を被告の所有にそれぞれ分割帰属させるのが相当であるから、右のとおり分割することとする。

ところで、本件において、原告らは、被告に対し、本件土地のうち原告らに分割帰属する土地部分につき、その引渡を求めている。

ところで、原告らの右訴えは、現在の給付を目的とする訴えと解されるが、共有物分割の効果が共有物分割の形成判決の確定によつて生じる以上、現在の給付請求としては理由がないが、共有物分割の形成判決の確定を条件とする将来の給付の訴えとしては、被告が、建築基準法四二条一項五号によつて道路位置指定を受けた私道についてはそもそも共有物分割は許されないと主張し、あるいは高額での任意買収を仄めかすなどの本件紛争の経過に鑑み、予め請求する必要があるものと認められる。

第二  反訴について

一  被告の主位的主張について判断する。

(一)  請求原因1(一)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  被告は、本件土地のもと共有者である木村春吉ら一一名が、相互に本件土地全体について通行地役権を設定したものとみるべきである旨主張する。

しかしながら、被告主張の事情だけから地役権設定契約の成立を推認することはできず、他に本件全証拠によるもこれを肯定させるに足る証明がなく、また、前示のとおり、道路位置の指定により被告が本件土地を道路として通行しうる利益はいわゆる反射的利益にすぎず、しかも被告が右の利益を有するのは地役権を有するのとは全く別個の法律関係に基づくものであり、そしてもともとある土地に他人の地役権が存在するかどうかについて最も大きな利害関係を有するのはその土地の所有者(共有者)であるから、仮に右地役権設定契約の成立を肯定するとしても、本件土地の共有者である原告らが被告に対し地役権設定登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者であることは明らかであるところ、本件土地についてはかかる地役権の登記がないから、その後本件土地の共有持分権を取得した原告らに対しては右地役権をもつて対抗し得ないものというべきである。

したがつて、被告の主位的主張は、いずれにしてもその余の点について判断するまでもなく理由がない。

二  被告の予備的主張について判断する。

被告は、本件土地のうち別紙図面記載のチ・ホ・ニ・ト・ヘ・イ・チの各点を順次直線で結ぶ線によつて囲まれた範囲内の部分について、前記被告の隣接所有地を要役地とする通行のための地役権を時効取得した旨主張する。

しかしながら、本件において被告並びに前所有者が本件土地を通路として開設したと認めるに足りる証拠はないから、短期・長期を問わず本件で地役権の時効取得が成立する余地はなく、被告の予備的主張も、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三  結論

以上の次第で、原告らの本訴請求のうち共有物分割請求については、前示のとおり分割することとし、引渡請求については前示の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、被告の反訴請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小沢一郎)

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